旧き冒険者の足跡/戦い
(山の入り口まで、あと数分くらいかな?)
山を目指し、ひたすら足場の上を歩き続ける。
途中の魔物から弓矢を奪い、
道端で先人の物と思われる防具と、そこそこ質の良い回復薬を拾った。
防具は革製のヘルメットしか残っていなかったが、これでも少しは生存率が上がるだろう。
―だがしかし、なにもかも上手くはいかない。
(…この気配は)
後ろから何かが迫ってくる。
亡者か、死骸か、それとも・・・
「幽霊!」
ボロボロの革防具を依り代とした、幽霊の怪物。
それが3体迫ってきていた。
(数が多い・・・普通に立ち向かっても殺されるだけ)
装備は剣、弓矢、革のヘルメットのみ。
ゾンビやスケルトンとは道中でも戦ってきたが、幽霊となると訳が違う。
ゾンビ、スケルトン、幽霊。どれも数の多く知能の低い怪物だが、
ゾンビは心臓を貫くか身体をバラバラに裂けば一時的に止まり、
スケルトンも心臓はないもののゾンビと同じくバラバラにすることで対処ができる。
幽霊の怪物は何かの取り付きやすい物体を依り代にすることで成立し、
そこから魂を引き剥がすことで倒すことができる。
だが幽霊というのは総じて強い執着・怨念があるものであり、
依り代本体を攻撃し、引き剥がした所ですぐに同じ物、
もしくは近くの別の物に憑依されてしまう。
逃げることも選択肢に入るが、奴らの足はゾンビやスケルトンと比べて速すぎる。
幽霊は身軽なものを依り代としているほど、移動速度が速くなるのだ。
つまり相手が諦めるまで戦うか、一撃で決まるような手段を取らなければならない。
相手は三体。この数を相手取るのは難しすぎる。
(―となると、足場から落とすのが一番)
幸い、幽霊らは特に足場の細くなる橋の場所へ向かっている。
斜めからの弓の一撃で落とせるだろう。
意識を手元と眼に集中させる。
ただ冷静に、落とすことだけを考える。
幽霊達が橋を渡り終える、その直前に・・・
(―今!)
一射。
矢は見事に戦闘の幽霊に当たり、奈落の底へ落ちていく。
喜んでいる暇はない。意識を緩めてはいけない。
まだ二体残っている。
(―もう一発!)
また一射。
二体目の幽霊に矢が刺さり、一体目と同じ末路を辿る。
残るは一体のみ。
(―これで終わりだ!)
最後の一射。渾身の一撃が幽霊を襲う。
だが、しかし。
幽霊(やつ)は、それを避けた。
「な、に・・・!?」
統一していた精神が乱れる。
その幽霊が例外的に頭の良い個体だったのか、そもそも外れてしまっていたのか。
思考が焦り始める。
(いや、そんな事を考えている暇はない!
今はただ、対処の手段を考えるべきだ!)
今までの冒険で身に付いた"判断"が私を救う。
こうなってしまったら、最早剣で相手するしかない。
逃げ腰にならず、勇気を振り絞って幽霊に立ち向かう。
相手はボロボロの防具一式を依り代にしている。
ならば、縦に斬って全ての防具を攻撃するのが一番だ。
―先ず最初に渾身の一撃を決めてしまおう。そうすれば、怯えて諦めてくれるかもしれない。
幽霊に駆け寄り、
剣を振り上げ、
大きく跳躍し、
「えいッ!」
全身の力を込めて剣を振り下ろす!
幽霊の防具(よりしろ)は見事に両断され、怯えた魂が飛び出してきた。
幽霊の魂が勢いよくどこかへ飛んで行く。
足下には、もはや使い物にならないただの革が転がっていた。
「・・・ふぅ、もう大丈夫だね」
緊張が解け、溜息が漏れる。
一時は焦りかけたが、何とか無傷で乗り切ることができたのだ。
(あの山に向かう前に、ちょっと一息つこうか)
身体の力を抜き、今までよく見ていなかった、目指している山を観察する。
(・・・キノコがいっぱい)
目指している山には、無数のキノコが生えていた。この地下世界らしい。
キノコの生えた石山・・・キノコの山と名付けよう。
キノコの山は、もうすぐそこにある。